わたしは、なにか大事なものを忘れていたようです…
大島育雄さんの『エスキモーになった日本人』
(1989年,文藝春秋)
これを読まずに、キビャックを語っていたとは…
大島さんは、腕利きのキビャック作り手のようです。
彼とキビヤとの出会いは1972年にまでさかのぼります。
すでに現地入りしていた植村さんから、
たぶん、キビヤっていう臭いやつを出されるけど、ぜひ一つ食べたほうがいいな。
彼らの中に溶け込むためにもね。
お祝いの特別料理みたいなものだし、慣れるとうまいんだな、これが
と、教えてもらったのが始まりでした。
誰しも経験するように、彼にとってもキビャックは取っ付き難い存在だったようです。
植村さんの食べ方を、見よう見まねでやってみる。
左手で頭部をつまんで、右手で羽根をむしっていく。
意外にするする抜けるものだ。
赤っぽい鳥肌がむき出しになる。
植村さんはその首筋あたりにガブと食いついたかと思うと、
写真はイメージそのまま皮をずるずる剥ぎながら口にふくんでいく。
(中略)
舌はヒリヒリするような刺激がある。
胃袋は早くも受け入れ拒否の合図を送ってくる。
腐ったもの以外は、こんな臭いや味を出さないはずだ。
植村さんは早くも、胸の骨をはずして内臓をすすり、
口の回りを赤黒い肉汁でベショベショにしている。
私は味わってなどいられない。
のみこんで、胃袋が押し戻してくるのをまたのみこむ。(中略)
涙がでそうだ。しかめっ面をしないために、必死に努力をする。
自分の胃袋との闘いだ。なんとか食べてしまった。するとゲップがでてきた。
油断すると、いま食べたものをモドしてしまいそうなゲップだ。
かろうじて持ちこたえた。
このように、手荒い「キビヤの洗礼」を受けた大島さんですが、
のちに自他ともに認めるキビャックマイスターとなってゆくのです。
次回は、そんな大島さんの本にキビャック作成法を見ていきます。
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